流し読み

どうでもいいこと

カッコつけたい時期

思春期の男子は、基本的にカッコつけたがる生き物である。今になって振り返ると呆れ返るほど馬鹿なことをカッコいいと思っていた訳で、あの頃女子にウケると思ってやっていたことはだいたい何とも思われていないかダサいと思われていたかの二つに一つだったろう。当時の俺が自己をある程度客観的に見つめる視点を著しく欠いていたことは否めない。

 

中学生の頃、ポケットに手を入れて歩くのがカッコいいと思っていた。何だか少し悪な感じがして(中学生男子にとって、カッコつけと少し悪は同義語である)、特に登下校の最中によくやっていた。たぶんそもそも女子に気付かれてなかったと思う。思い返してみてもかなりダサい。考えてみれば、中学で背が伸びまくってズボンが七分丈みたいになっていた制服で不良ぶってもコントにしか見えないだろう。不良が腰パンで手を突っ込んでいるならまだしも、モサッとした髪型にニキビだらけの顔をした気持ち悪いオタクがそんなことをしていても女子にウケる要素などどこにもないのは至極当たり前である。

制服に関するカッコつけは色々あった。上着の下に着るシャツは長袖と半袖の二種類あって、夏以外は長袖を着用する。この長袖シャツを腕捲りして着るのがカッコいいと思っていた。猛者になると、半袖の時ですら捲ってノースリーブのシャツみたいにしていた。捲れた袖が肩のところでクロワッサンみたいに丸まっているのが少し笑える着こなしである。他にも(俺はやってなかったが)、上着のボタンをわざと留めないで前を開けて着たり、靴のかかとをわざと踏んで履いたり……。とにかく制服は崩して着るのがカッコいいとだいたいの男子は考えていたようである。女子がどう感じていたかは全く知らないが、少なくとも「カッコいい」とは多分思ってないだろう。清潔感ないし。この頃の体験を通じて、後に俺は「清潔感」というものが女性が男性を評価する上でかなり大きなウェイトを占めていることを学んだ。

 

ありがちな話だが、「女になんか全然興味ないから」とスカした態度を取るのがカッコいいと思っていた。むろん実際のところは思春期であるから「女子にモテたい」「彼女がほしい」「女子の裸を見たい」「おっぱい揉みたい」「おっぱい揉みたい」「おっぱい揉みたい」……等ということしか考えていない。10代男子のガラスの心にとって「めちゃくちゃモテたいのに現実的には女子に毛ほども相手にされていない自分」を受け入れることは耐え難い屈辱である。それをどうにか受け入れるために編み出したのが「女になんか興味ないからモテなくても全然悔しくない」という態度だった訳だ。もうこの文章を見ただけでも「死ぬほどモテたいんだろうし、おっぱいとかも揉みたいんだろうな~」と感じられて苦笑いしてしまう。事実、俺は何とかしておっぱいが揉めないかとあれこれ考えを巡らせては良いアイデアが思い付かず虚しく眠ることを中学時代繰り返していた。3年間でその成果が出たかどうか、読者諸賢は書かなくても勿論お分かりだろう。後に高校へ入学してから、この辺の性的欲望は一気にオープンな、かつ負の方向へと振り切れることになる。

今になって振り返ると、そんなにモテたいのならもっさりした髪型を整えるとか筋肉をもっとつけるとか(俺の中には思春期の女子は大抵運動部の筋肉質な男子が好きだという偏見がある)、色々できることはあった筈だ。ありのままの自分を受け入れてほしいという10年前の自分が抱く気持ちは分からなくもないが、それが可能なルックスや性格、能力を磨いてこなかったことに俺は愚かにも気づいていなかった。極端に言えば、レストランで生の豚肉を出されて「これがありのままの豚肉ですので、受け入れてお召し上がりください」等と言われるようなものである。加工して見栄えや味を良くしたから食べてもらえるわけで、何も加工しないまま食えと要求されてもどだい無理な話だ。そもそも、「モテたい=色んな異性に好かれてその中から自分の一番好みな異性を自由に選びたい」というとんでもなく傍若無人な欲望であり、そりゃそんなこと考えてる奴が女子から相手にされないのも当然だ。相手は玩具店に売っているお人形さんではなく、一人の生きた人間の女の子なのだから。

 

特に成績の良い男子にありがちなことだが、定期試験前になると「今回全然勉強してないからなぁ~」と女子の前で言う。本当は机にかじりついてめちゃくちゃ勉強しているのに。

勉強していないことがカッコいいと思っていた時期が俺にもあった。しかし実際は何だかんだ勉強していたから、それを女子に知られてはいけない訳だ。今になると心底馬鹿だと思うが、当時の俺は『勉強してないアピール→試験で高得点→女子に「カッコいい!!すごい!!♥️♥️」と言われる』と内心まあまあ本気で思っていた。実際のところは、俺のような陰気な男子が高得点を取っても良くて精々「あーそうなんだ、すごいね」程度である。女子との関わりが少なかったから当たり前だ。むしろ「すごいね」と言ってくれればまだいい方かも知れない。因みに、一番俺の成績を褒めてくれた異性はダントツで姉だった(俺の母親は子供を褒めない人だ)。

勉強関連で言うと、女子に勉強を教えてくれと頼まれたときにわざとぶっきらぼうに教えるのがカッコいいと思っていた。折角頼ってくれたのに失礼以外の何物でもない。「こんなの誰でもわかるだろ、簡単だよ」とかほざいてる暇があるなら練習問題のひとつでも作問した方がまだ好印象なのは考えるまでもない。あと、学生時代の女の子は勉強してないアピールにばかり精を出している俺のような男子よりも、毎日コツコツ目標に向かって頑張ってる努力家な男子の方が多分好きだと思う。

今までの人生で学んだことだが、女性は基本的に一目惚れの割合が男性に比べて非常に低いような気がする。女性というものは全員そうだと主張する訳ではないが、少なくとも俺の周囲にいた女性はあまり一目惚れをしなかったように思う。そして、女性が男性を評価するとき、俺には未だにハッキリと実態の掴めない「生理的に無理」というカテゴリーがあるらしい。姉に訊いたところ「清潔感のない人は全員そこだね」とのことだった。また「清潔感」か……。まあ男性の俺も髪の毛が脂でテカテカしてたり、フケだらけだったり、シャツが皺だらけでヨレヨレだったりする女性は確かに嫌だから、その感覚の強化版みたいなものなのだろうか。

 

他にも色々と意味不明なカッコつけは存在した。夜更かしをするのがカッコいい、授業中居眠りをするのがカッコいい、早弁をするのがカッコいい、テストで高得点を取っても平然としているのがカッコいい、等々……。正直書いていて恥ずかしいが、昔の俺は大真面目だった。自分でも非常に気持ち悪いと思う。ありのままでモテる人間など数はそんなに多くないから、それを自覚した上で何とか工夫をしていたという思い切り好意的な解釈をしても、流石にダサい以外の感想がない。

因みに、俺には弟がいるのだが、彼は彼で「女に興味ないカッコつけ」を俺以上に尖った形で行っていた。バレンタインデーにクラスの女子から呼び出され(弟は俺よりだいぶモテる男だ)、チョコを渡され告白されたにも関わらず「いや、付き合うとか興味ねえから」などと言って断った話をニヤニヤ笑いながら自慢げにしていたのを覚えている。弟の手には、その女子から貰ったチョコレートの食べかけがしっかりと握られていた。

告白断っておいてチョコだけもらってくるなよ。おい。